This article was first published by Private Dub (October/2011)

カリフォルニアという地名を聞くと太陽の光に満ちた明るく陽気なイメージが浮かぶが、その北部には古くから原住民に神の木と呼ばれてきた樹高が100m近くにもなるレッドウッドの深い森がある。
このあまり陽の光が地面まで届かない薄暗い森の近くの町で幼少時代を過ごしたChelsea Wolfeは、太古の昔から生きながらえてきたそれらの木々が生み出す歪で神秘的なオーラから多大な影響を受けたという。
彼女が今年8月にリリースしたギリシャ語で終末論、啓示を意味する『Ἀποκάλυψις』(Apokalypsis)というタイトルが冠された最新アルバムは、間違えて古いホラー映画のサウンドトラックを再生してしまったのかと思ってしまう恐ろしい悪魔の金切り声のような30秒足らずのトラック"Primal / Carnal"で始まり、儀式のようなパーカッシヴなビートと鬱屈としたギター・リフの反復、その上に彼女の呪術的なボーカルが重なっていくドゥーム・フォーク・ソング「Mer」に続いていく。
それはまるで霧深い森の奥深くで、密かに執りおこなわれている悪魔と魔女の儀式の場を目撃してしまったかのようなぞくぞくとした冷たい感覚を聴く者に与える。
今回我々はミステリアスな彼女のパーソナリティーと最新作『Ἀποκάλυψις』の事、そしてアーティストイメージや楽曲に一貫して充満するダークなアプローチのインスピレーションとなっているものが何であるのかについてメール・インタビューを通じて彼女に尋ねてみた。

Chelsea Wolfe Interview
By Teshima Satoru & KanouKaoru

Private Dub(以下PD):Chelsea Wolfeについてご自身の言葉で一言。

Chelsea Wolfe(以下CW):27歳/多分躁鬱/ソロプロジェクト/バンド/景観と個性への親和。

PD:あなたはカリフォルニア北部の小さい田舎町で子供時代を過ごしました。そこはどういう所ですか?どのようにあなたの音楽に影響しましたか?

CW:この言葉あんまり使わないんだけど、でもカリフォルニアは「マジカル」な場所だと思うな。私は町の郊外で育って、実を言うと田舎っぽい場所では無かったわね...。ある人はそこをブラックホールと呼んでいるわ。でもカリフォルニア北部には自然が多くて、良い所もたくさんある。ほとんど木だらけで...あの大木の森からも近いところに住んでいたわ。巨大なレッドウッドが連なっているの。
子供の頃私が囲まれていた環境と、住んでいた家は私の世界に対する見方に多大な影響を与えたと思う。ストリートを横切る線路とどこへ行っても木、木、木...。全てが不恰好でなんかダークだった。。

PD:作曲時に心がけていることはありますか?制作のプロセスを教えてください。

CW:大半は本能に従ってる......。一つのコンセプトやアイデアがやってきて、大量の言葉をノートに書き下ろしたり、そのアイデアをビートやギターでレコーディングするまで私を悩ませ続けるの。ふっとやってくるアイディアに従って、そこから積み上げていくのよ。もしうまくいかないようだったら普通はすぐに作業をやめてしまう。息が続かない楽曲にノスタルジックな感情は抱かない。

PD:あなたは(9歳のときから)父親のホームスタジオにこっそり入って、自分の曲をレコーディングしていたみたいですね。最近になるまで音楽を共有しなかったのは何故ですか?何があなたにアーティストとして心を開かせたのですか?

CW:私が19歳のとき大学のために家を出たの...。海が見えるアパートメントで、新しい暮らしを始めたわ。その時とても孤独だった。よくギターを持って音が響く大きい廊下に出て、作曲して歌ったりした。すごく心が安らいだ。よく窓辺に立って、ここからジャンプしてやろうと思ったわ。でも死にたかったわけじゃないよ...。何故だか自分でもよくわからない。多分すごく寂しくて、何か違ったことを感じたかったのかな。
一度アパートがひったくりにあったとき、犯人はギターを持っていかなかったの。嬉しかった。CDのコレクションは盗んでいったけどね。それから音楽の収集をするのは止めた。それでよかったのよ。いずれ私にも友達が出来て、私の曲をシェアして欲しいと頼んだ。ライブ演奏は子供の時以来初めてだったし、どんな人の前でパフォーマンスするにも慣れるのに何年もかかかったわね。

PD:以前のインタビューでパーソナル(個人的)な曲はあまり書かないとおっしゃっていましたね。誰のために、何のために曲を書いているのですか?

CW:ある程度パーソナルな部分もあると思うのよ。でもある時期に私は意識的に決まったことを書くのをやめようと決めた。その大半に私の経験上の視点や意見が加わっているの。でもそういう自分の経験が、私の人間性に影響したのは確かだし、作曲にも影響しているわ。自分と関係ない背景やテーマで曲を書こうとはしているけれどね。

PD:シンガーとして、自分の「声」を見つけたのはいつですか?それとも自分の歌声にはずっと自信があって、満足していた?

CW:長い間歌うことを考え続けて、自分の声にたどり着くまでにとても長く、ゆっくりとした進歩が必要だった。歌うことや曲を書くのが大好きだったけど、良い曲を書けるようになるまですごく時間がかかったの。ダメな曲を書いているって自分でも分かっていたけれど、とにかく書き続けて前進する以外にどうすればいいかわからなかったのよね。ついに立ち止まって一息ついた時、何か新しい物に心を開いたの。私はパフォーマンスアートツアーに参加して、型に囚われないべニューでいくつか演奏することになった。自分の歌声を産業空間や地下室、改築した教会などさまざまな場所で耳にして、それは自分の声を理解する手助けになったし、また新しくインスパイアされたわ。

PD:あなたの最新作Ἀποκάλυψις(Apokalypsis)について教えてください。タイトルの意味はなんですか?アルバムアートワークに秘められた意味は?

CW:Ἀποκάλυψις はギリシャ語で「啓示」「ベールを脱ぐ」「アポカリプス(終末論)」という意味なの。私にとってこの言葉はアルバムや全体を覆うテーマにとても適していた。つまり、自分の周りにある真実を見つめ、真実に自分の心を開くということ。また、様々な出来事の終末もさしているわ。
このカバーアートはエピファニー(顕示)の瞬間...。隕石が降って来る一瞬前の事をイメージしてみて。あなたは何かをふと完璧に理解するはずよね。実はそれってポジティブな考え方なのよ。大半はダークで恐ろしいものと捉えられているけどね。Apokalypsisのタイトルはアルバム全体の雰囲気を捉えているの。

PD:「Mer」という曲では特に、歌詞にカットアップの手法がとられていますね。(アーティストとして)バロウズ(William S. Burroughs)とあなたの関係は?

CW:彼は多分天才よ。...といっても、実際カットアップのテクニックを使ったわけじゃないんだけどね。以前ほとんど明らかになった世界の真実を探ったドキュメンタリーに夢中になってたの。例えば、企業農業とか、子供の売春とかね。ちょうどその時私はハワイにいるお母さんを訪ねていた。彼女がそこに住んでいたとき毎年一回は会いに行っていたのよ。いつになっても、1,2週間突然トロピカルな環境で過ごすのは不思議な感じだった。私って、熱帯でバケーションを送るようなタイプじゃないしね。でもハワイには素晴らしい場所があって、そこで島の緑で青々しい所を感じられる。山肌とか、木々の緑をね。そこにはいつも決まったインスピレーションを感じるわ。
とにかく、ただ言葉の連なりが私にやってきてそれをノートに書きとめて音楽に取り込んだ。その後それがやっと意味を成しているなって気付いたの。

PD:また、あなたは最近ガーディアン紙の記事でDavid Lynchの影響下にあるアーティストとして紹介されていました。彼は実際にあなたのアートに強い影響を与えたのですか?

CW:彼は私が本当に一体感を感じるアーティストよ。実際、比較的最近彼の作品を発見したのだけれどね。Mullholland Driveを観たのは多分四年前。だからDavid Lynchの映画を観て育ったわけじゃないの。彼のアートに対する姿勢はとても刺激的で、彼の映画に登場するダークな要素と美しいセッティングとキャラクターは超現実と現実のラインを同時に保つことに成功している。私は他にもJohn Waters、Ingmar Bergman、Lars Von Trierがお気に入り。最近Melancholiaを観たんだけど、私の心を本当に引き裂いたわ。あとCharlotte Gainsbourgはとてもスペシャルな存在ね※。

※MelancholiaはLars Von Trierの最新作。Charlotte Gainsbourgもまた同映画に出演している

PD:Ἀποκάλυψιςを聴いていると、「エキソシスト」や「オーメン」のようなクラシックのオカルトムービーを見ているような気分になります。多分映画内に広がる恐ろしい緊張感やざらざらした手触りと聖書の引用(ほとんど悪魔に関連したものだけれど)に似たものを感じたからでしょうか。
あなたの芸術(アーティストイメージや楽曲)が一貫して、このようなダークで終末論的なイメージに惹かれているのは何故でしょうか?

CW:聖書からの言及や、世界の終わりの言及は私の作品の中で一番広く行き渡っているわね。あなたがそのイメージを理解してくれて嬉しいわ。音楽が様々な意見に解釈されるのも嬉しい。終末論的なテーマは私が"Atlas Shrugged"を読み終わったときに私に降りかかってきたの※。様々なものが衰えて行き、たとえ次に来るものが「破壊」や「誕生」であっても、何かが起こらなくてはならないというアイディアを得たの。

※Atlas Shrugged(肩をすくめたアトラス)はAyn Randによって書かれた1957年発売の長編小説。近未来のアメリカを舞台に資本主義社会における葛藤とドラマを描く。2011年に映画化。

PD:人は死んだあとどうなると思いますか?

CW:難しい質問ね!まだそれが説明できるほどその問題に対峙していないな。今「死の瞬間」を理解しようとし始めたところだから。

PD:ハロウィーンがもうすぐやってきて、死者が暗い墓から乗り出そうとしていますね。楽しみですか?何か特別なプランでもありますか?

CW:私実はハロウィーンが好きじゃないのよね...。一度フリーダ・カーロの格好をして友達が倉庫で開催したパーティーに向かったの。途中でメイクを落として着替えたわ......他の人に成って変わる感じが好きじゃないのよ。