This article was first published by Public Rhythm (December/2014)

Scott HansenがTychoという名義を用いて初めて作品を発表したのは、今から12年前の2002年まで遡る。それ以前から音楽制作はしていたそうだが、その年に彼は怪我をし約2ヶ月程仕事を休み静養していた時期があった。そうして偶然生まれたその時間を使って、彼はファースト・EP『The Science of Patterns』を完成させる。それはキッチュなドラム・マシンやシンセを使ったローファイで手作り感のある作品だったが、既にこの頃から彼の最大の魅力の一つである淡くノスタルジックなメロディは曲の中核を担っていた。
2004年にはファースト・アルバム『Sunrise Projector』(後に曲を一部新曲に入れ替える等してリイシュー)を自主レーベルGammaphoneからリリースする。
やがて人気レーベルGhostly Internationalと契約した彼は、2011年にセカンド・アルバム『Dive』をリリース、このアルバムが世界的に高く評価され広くその名が知られるようになった。
そして今年春にリリースした最新作『Awake』は、その『Dive』の頃から彼のライヴにサポート・プレイヤーとして参加していたZac BrownとRory O’connorの2人が加わったバンド編成での初の作品。2人の加入は曲に躍動感を寄与しただけでなく、Scottに多大なインスピレーションを与えたようで、本作を“the first true Tycho record”と評する程満足しているという。
今回は東名阪を回る初の単独ツアーを来月に控えるそんなScottにメール・インタビューを通じて色々と聞いてみた。

Interview: Tycho
by KanouKaoru

-2002年に発表したファースト・EP『The Science of Patterns』は怪我による静養中に制作した作品だったそうですね。それ以前からいつか本格的に音楽活動をしてみようと考えていたのですか?

Tycho: 僕は常に音楽に集中することができることを夢見ていたけど、自分が怪我をするまではその機会はあったことはなかったんだ。
ただ、それは短い時間で、すぐに仕事に復帰しなければならなかった。
それから何年も後まで出来なかったけど、『Dive』を作り終えた辺りからフルタイムに音楽を追求することができるようになったんだ。

-ファースト・アルバムをリリースしてから10年という節目の今年にリリースした本作について、貴方は“the first true Tycho record”とコメントしていましたが、それは本作でバンド編成に移行したことに関連していますか?

Tycho: それらの10年はアーティストとして成長する過程だった。『Awake』ではこのプロジェクトのために長い時間取り組んでいたヴィジョンが結晶化した。
ZacとRoryと一緒にやることは信じられないほど素晴らしく、Tychoが確立していた文脈の中で表現するための新たな道を開いた。

-前作『Dive』と『Awake』のアートワークには関連性を感じるのですがそこに意図はありますか?

Tycho: 両方の作品に意図があるんだ。全てのヴィジュアル作品は僕が音楽だけでは表現できなかったヴィジョンの一部を表現する試みであり、そしてその逆も同様なんだ。

-『Awake』の制作においてバンド編成という点の他に何らかのコンセプトやテーマはありましたか?

Tycho: 『Awake』をレコーディングする前に、広大な西アメリカを旅することに膨大な時間を費やした。
僕はそれらの環境にある感覚をレコードで捕らえたかったんだ。

-バンドとソロの一番の違いは? 今後もTychoはバンド編成での音楽制作を継続しますか?

Tycho: 他のミュージシャンと働くことは、非常に解放的な経験だった。それは僕の自由度が増し、自分の強みに集中できると同時に、音楽を制作する際に描くことができるパレットを広げてくれた。
僕はZacやRoryと働き続けるつもりだ。彼らによって、以前1人のアーティストだった時には出来なかった事を表現することができた。

-グラフィック・デザイナーとしての美的感覚や知見はTychoでの音楽制作に幾らかの影響を与えていると考えますか? 貴方の曲の中で一つ一つの楽器が奏でるフレーズの重なり方やループの扱い方からは整然としたレイヤー構成を心がけているように感じました。

Tycho: 僕の音楽とヴィジュアル・ワークの間の相関は同じ場所から来る結果であり、双方における僕のプロセスと方法論は非常に似ている。
それらが相互に影響していることはあまりなく、それらが同じアイデアを表現しているんだ。

-あなたはかなりのアナログ・シンセ・マニアとして知られています。アナログ・シンセの何処に魅力を感じていますか?

Tycho: 僕はアナログより少なくとも同じかそれ以上のデジタル機材を使っている。*
アナログ機材のありのままを評価し、それが有用なときに使用する。それ以外のものには他のツールを使用している。僕はアナログ対デジタルにこだわっていない。両方ともがより強くなる所で、彼らを一緒に働かせたいんだ。

(*XLR8Rが前作リリース後に彼におこなったインタビューでは、ハードウェア中心の音楽制作に対するこだわりが感じられるが、『Awake』を制作する過程でデジタル機材を積極的に導入するようになった模様。)

-以前我々のサイトに投稿した今回の来日についての記事への反応を見たところ、Tychoの音楽はかなり幅広い層に支持されていると感じました。私見ではその理由の一つは、メランコリックかつ具体的なメロディが楽曲の主軸に据えられているからではないかと感じています。一つの傾向として、エレクトロニカというジャンルにカテゴライズされるアーティストの多くは、サンプリングのエディットであったり、コンピューターを駆使して生成した抽象的なフレーズを好んで楽曲に用いますが、貴方自身はそのような手法に関心はありますか?

Tycho: 僕は自分自身の音楽やそれ以外でもメロディックな要素が多いものに引き寄せられる傾向にある。
僕も皆のようにコンピューターやサンプラーを使用するが、ライヴ感と有機的な感覚を維持したい。

-今年リリースされた中で特に気に入った作品を5枚教えて下さい。

Tycho: 今年はそれほど新しい音楽を聞く機会がなかったんだ。
でもこれらのレコードを楽しんだよ。

Mac Demarco – Salad Days
Gardens & Villa – Dunes
Leon Vynehall – Music for the Uninvited

-この一年を振り返ってみてどのような年でしたか?

Tycho: 僕は今後常に人生で最も刺激的な時間の1つとして2014年を振り返るだろう。
時に心身を疲れさせたけど、常にやりがいがあった。
僕はとてもラッキーだと思う。

-来年1月の来日公演に向けて一言お願いします。

Tycho: 日本をツアーすることは常に僕の夢だった。そしてその機会を手に入れ光栄に思う。